雨音work

6月
毎年この雨の月を僕はほとんど事務所で過ごす
食材を買い込んで家にこもって
仕事とギターと料理で過ごす
雨の音は仕事に集中するための呼び水
なぜだか雨の不快さを部屋の中で関わりを断つことで心地よくなる
そのために
デスクを整理整頓することにしたが
その途中に発掘されるいろいろな資料や書類で僕の手は止まる
結果
決意から
すでに一週間
デスクは今日も混沌としている

そんなデスクでもやらなくちゃいけないことは進めた
秋冬の新作のグレードを2つあげた
工場のマッチングをしっかり考えて
生地も裏ルートで交渉し特級品を確保した
展示会以後少しmerphのコレクションを進化させて
8月から新作を投入していく
特にトレンチとリバーシブルベストに期待してほしい

梅雨入りした京都
その間にめざましく仕事を完了させ
新作をしっかりと作り込んで
そして梅雨が終わる頃
また皆様にちょっとした報告を
それもまた乞うご期待

ざわめき

知人の舞台女優に御誘い頂き
彼女の舞台を観に行ってきた
八幡市の石清水八幡宮の境内
その杜の中
ぽっかりと空が開いた場所に設けられた特設の舞台
会場に着いてから
しばらく落日を楽しみ
日が完全にくれた19時
舞台は始まった

実は舞台というものを見るのが初めてで
1時間40分のノンストップの物語と聞き
ずいぶん長くやるんだなあと感じたけれど
始まってみればその作り込まれた音楽やセリフや動きに
目が離せなくなった
冒頭つかみどころがないセリフに逆に集中力が上がった
多くを説明しないまま物語はどんどん進み
大勢のキャストたちは完璧に動き
絶え間なくセリフが襲いかかってくる
見る側に己で考えろ言わんばかりの
様々な思想や哲学、物理学のキーワード
僕も知っている要素がたくさん突き刺さってきた
同じことを知ってる人が書いているんだろう
でも
なぜあんな物語が作れるのか
心がざわざわした

ものを作る者の端くれ
時々こういう全く自分にできないことを成し
心にざわめきを起こしてくれる人間の作品を見るのは
とても重要な刺激になる
洋服に落とし込んだり
直接影響を受けるわけではなく
何か鈍くなっている部分が動き出すような気がする

さて
活発になったはずの我が心を引っさげて
明日からまた出張
ここ二週間は怒涛のスケジュール
舞台の言葉を借りるなら
空間は進み続ける
駅弁食って二時間新幹線で打ち合わせしながら
いい仕事していい酒を飲む

また新しいこと始めるので
それに対する準備を進めている

しかし
どうしてもそれじゃなきゃいけないものをなんとか手に入れようとしてため
この三日不本意ながらインターネットの大海をさまよっている
根気のいる作業の中
昨夜ようやく一つ狙っていたものを確保した

疲れ果てた目をこすって時計を見ると23:47
もう直ぐ日が変わる
でも
どうしても飲みに行きたくなって
タクシーに乗って祇園のBARへ向かった
二つ上のマスターがやっている静かなBAR
ここは決まって一人で行く
まだ誰かを連れて行ったことがない
理由はマスターとゆっくり話すため

このBARに連れて行ってくれたのは京都に来てからの一番の友達だった
彼は事情があってもう今はもう京都にはいない
その彼の悪口をマスターと話す
悪口といっても
彼の思い出話
彼の素行の悪さが結果悪口となってしまうだけ
僕もマスターも彼のことを心愛している
しかし
最近は彼のネタもつき始めた
今どうしているかも知らない
最近は京都にも来ていないらしい
いつの間にか彼以外の話しかしなくなった

そんなさみしい気持ちと
なんだかここに来ると落ち着いて酒が飲めることを確かめて
雨の中帰ってきた
もう直ぐ夜が明ける
そしたらmerphの製作と並行進行で探し物開始
いい酒飲んだから体は楽だ
3時間ニューロンをダウン

規定路線

五月の爽やかさが次第に薄れて
京都はすでにあのじっとりした湿気の始まりを感じています
これから始まる梅雨と夏にか弱い私の心は折れそうです

そんな中
手にしているのはwool100%の分厚い生地見本
一度は『2016AW』などと冠して創り上げたmerph群を
もう一度考え直しています
美味しい生地が見つかってしまったので
仕方がありません
merphの今年の秋冬は
まあいつも通りのごついコートの大行進
そこにどんどん展示会から生地変更して
特級品を差し込んでいます
柄にもなくちょっと市場を意識した霞んだコレクションを
cassowaryで望まれる自己顕示欲突き抜けた作品に
規定路線へ修正しているわけです
内覧会をご覧いただき
少しテンション下がった方
ご期待ください
いつものmerphにもどします
そしてこれからそれをもっとやり切っていきますよ

皐月某日

広島から帰ったら
京都は夏でした
また縁があって素晴らしい音楽を聴きました
それから仲間のお店の5周年と10周年を祝って
うまい酒を飲みました
さあて
服を創ります
新しい服を創ります

 

 

最後の一撃

ドルマンスリーブのを着ているのに
そう見えないようにする工夫(デザイン)
裾幅を通常のTシャツ程度にして
見頃に身幅を錯覚させるインパクトの強い別布を叩きつける
機能としてリラックスできる民族衣装のパターンを採用しつつ
それのみで終われせるのはつまらないから付け加えた一工夫
この一工夫が蛇足かトドメの一撃か
これはトドメが刺せたと思う

 

副店長

久しぶりの店頭出勤でございます
ゴールデンウィーク二段目の三連休を
太陽アレルギーと生にんにくで体調を壊し
首まで寝違えて
本日はわたくし吉川店長の直属の部下
”副店長”坂井が8時間
皆様のご来訪をお待ちしております
右から話しかけないでください

cassowaryはすでに吉川の牙城
良い意味でも悪い意味でも
とりあえず
在庫の隠し場所(保管場所)がわかるかが不安です
おかげさまでcassowaryは
年明けからずっと好調を維持しています
そんな状況下でのゴールデンウィーク
久しぶりの一人での店番
無事に終わることを祈ります
職務を果たしましたら
今宵も酒場へと消えていきたいと思います
レスターの優勝を祝うというテイで
いや
場合によりましては
昼からcassowaryで始めてしまっても良いでしょう
国民の休日です
節度をもって嗜めば
文句は言われないでしょう
それでは5月3日憲法記念日
ゆっくりcassowary始めます

裏merph

今シーズン一番気に入っていたデザインは
このmerphなりのbalmacaan
しかし
支持を得られずお蔵入り
こういうの本当に展示会で受けません
でも
cassowaryでは受けるんです
merphとしてわざわざ自分で服作ってるんです
こういうのもっと作りたいと思うんです
他人がmerphをどう理解するかはわかりませんが
最も重要なことは僕が何を作りたいかだと思います
このジャケットは来年リトライします
修正せずこのままリリースしてみせましょう
きっとたくさんの人に来てもらえるはずですから

ちなみに
ショートパンツのカーキも生産できませんでした
この色もいいのにね

正常化

東京から戻りました
いつものやきとり屋でぼんじりとサメのステーキも食えました
姉弟子の和食屋で肉汁の巣窟ザ・メンチカツも食えました
看板の無いBARで肉厚五センチ豚ロースのとん平焼きも食えました
満足です

もちろん食ってばかりではありません
今後のあらゆる作戦会議も燃え上がる内容でした
しかし燃え上がる僕の血潮とは裏腹に
洋服の社会は終末期の匂い
むせ返るほどに悪臭を放っています
いよいよセレクトショップに洋服を卸して売上を上げるというシステムは
限られた人々だけの市場になってきました
そこではデザイナーの役割は
半ばOEM生産のように成り下がり始めています
我らのように自分の形を創って誇らしげに展示すれば
『蛇足』とでも言われているように首を傾げられます
パーカはみんなと同じ形のパーカでなくてはなりません
モッズコートはみんなと同じ形のモッズコート
トレンチはみんなと同じ形のトレンチであればいいのです
後ろが割れたりしちゃダメです
Uネックにフード付けちゃダメです
前が重なってたりしちゃダメです
そんなことより
PRに金かけて掛け率下げて少量からでも別注うけりゃいいんですよ
そうすりゃアリバイ程度にオーダーが入ります
それを断ると卸先はみるみる減っていきます

ところが
ここで一つ矛盾が生じます
前述全国の多くのバイヤーから落第点を付けられたmerph
しかし売上はと言いますと
今年の春
前年比150%に急成長
数少ない理解者である希少な卸先様と
京都と神戸の直営店だけで
大手を含め20軒近く卸先があった時の売上を上まってしまいました

流行り廃り世の中の動き
そう言うことよりも
自分たちのことをもっとしっかり伝えること
それがどんな時代でも一番の武器であると
そう思います
雑誌や噂
人伝えじゃ伝わらないことを
しっかり伝える努力
しんどいけど
こんなに楽しいことはないですね