赤い破城槌

硬い天井に頭をぶつけてもなお
それを貫こうと知恵を絞り
机に向かい
生地の見本を舐めるように睨めつけ
幼少の頃から磨き上げた妄想力をフル活用し
脳内に思い描いた理想の衣を
何ヶ月もの細かい指示確認訂正を繰り返し
今までの自分のステイタスを更新する作品にトライする
それが私の仕事です

さてご報告
この度
デザイナーとしての新しいフロアへ上がる作品が仕上がったと
自信を持ってここにその作品を発表したいと思います

それが
こちらです

cardinal redのバルマカーン
京都の撮影技術では伝わりきらないのが悔やまれます
鮮やかな朱
滑らかなsuper120sメルトン
雨の京都の街角に舞い降りた赤い衝撃

洋服を作っていると
必ずこれまでの自分を超える作品が出て来ます
それは上がって来たとき
本当に自分が作った洋服なのかと
客観的な自分が疑いを持つのです
今日の昼下がりに届いたこの朱色の衣は
未だに私をにやつかせています

これから撮影し
オンラインショップにも載せますが
個人のSNSで公開したところ
ものすごい反響をいただいております
merph_animaの淑女用は10着しかございません
いつもながら脆弱な資金力を呪います
淑女用だけでも30着は売れると思います
メンズも20着もありません
本当に情けない
しかし
無理せず今はこのやり方で参ります

近くに来たら堺町六角の角を通ってください
おそらくこの赤はどこの洋服屋に行ってもかかっていないと思います
merphのcardinal
私の葉幅製作における次のステージへの破城槌
しかと見届けていただきたい

七ヶ月ぶりのメンチカツ

久しぶりの東京出張
久しぶりのメンチカツ
展示会シーズンの真っ只中のこの時期に
三日間東京に行っても
洋服業界の人に一人も会わないデザイナーであります

今回のメインミーティングは
まだちょっと詳細伏せておきますが
また素敵な音楽家の衣装のお話をいただき
そのフィッティングや細部の好みの聴取
総勢5名分
それぞれのこだわりや演奏に邪魔にあるNGディテールを
ものの10分でタイプして
明日の私へE-mail
そしてソワソワとしていた我々は本当の目的地
ミュージシャンの聖地
下北沢へ

私20年ぶりの下北沢
連れて行ってもらった店は
正に下北沢ならではの出で立ちと
飾らないけどちゃんとした料理の数々
ここは生ではなく敬意を持って瓶ビール
漢3人
気を使いながら黒ラベルを注ぎ合い
その後は各々のいつもの酒を飲みながら
ほぼ真面目に時々ふざけて気がつけば午前2時
本番での再会を楽しみにそれぞれの寝床へ

不思議なもので
洋服の世界ではそれほど数珠繋ぎにならないのに
音楽家とは恐ろしいほどご縁があります
きっとまだ私の中のミドル坂井が
あちらの世界への未練に縛られているのでしょう
クロッキーブックではなく
譜面に向かう日々を過ごしたかったミドル坂井の存在が
ちょっと変わった洋服人を生んだのだと
思うわけです

未熟なベテラン

まず最初に
この生地はmerphには関係なく
かつて私が働いていたレーベルの作品です
ミラノで発表し
当時某メゾンの制作チームも顧客にした我が師匠達の服です
ロービングクロスの凹凸を利用して
銅の箔プリントをしたオリジナルの生地
まだレーベルを始める前のスポンジ状態の私の脳みそは
毎日刺激と嫉妬で晴れ上がり
クールダウンするためのビールの量は増える一方でした

merphももう14年やって来ました
ベテランの域ですが
まだまだダメです

夏を駆逐する

ここにきて再び蒸し暑さが戻ってきた京都
まさに夏の断末魔
でもいくら抗っても
日に日に秋が夏を駆逐していきます
夜は虫の鳴き声や心地よい風の総攻撃で
ついにクーラーの出番はなくなりました

昼間は暑くとも
一日を通しって感じる秋のおかげで
つい先日まで見向きもされなかったロービングのコートが
毎日のように売れております
近々渾身の朱色のメルトンで仕立てたバルマカーンも届きます

そして届きたての新型JIP UP PARKA
見た目変化がないと言われましたが
先日書いた通り寸法を完全に書き換えたのです
実はデザインを変えるより神経を使うのです

ただし
フードの形はかなり変わりました
ネック部分が長くなり
さらに首元のボリュームをだせるようになりました
完全にこれも防寒着として使える仕上がりになってます

少しずつ秋の作品が揃ってきたcassowary
本日連休の最終日
雲が太陽を遮っています
夕方には涼しい風が吹くでしょう
秋の準備に入りましょう

メジャーチェンジ

長年merphの縁の下を支えてきたジップアップパーカ
2018年の秋に新しい寸法バランスとッフードの設計を手にいれて
本日9月14日
ついに店頭へ届きました

最初だから無地で無難に生産するのがセオリーでしょう
しかしずっとやりたかったんです
2トーン

カラー品番は”malta”
イタリアのつま先にあるマルタ共和国の町並みになぞらえてつけました

そしてもう一色は”dublin”
アイルランドの首都
夜の石の町並みのイメージです

冬までの軽い防寒着として使えるように
素材はオープンエンド精紡交撚機で紡績した糸で編んだ裏毛素材を選びました
難しい説明は必要であれば店頭で
簡単に言うと
一般的な裏毛に比べ
しっかりとしたボリュームと固さがある仕上がりになるんです

さらに色合いも杢調のものを選んでいます
持論ですが
単色のもののように色褪せが目立たず
スウェット素材などの場合杢調のものの方が清潔感を感じます

久しぶりのメジャーチェンジ
店頭にてお確かめください

世代交代

世界にインパクトを与えたロシアW杯日本代表
乾のカットインがまだ鮮明に蘇る最中
新生日本代表の初国際試合
日本VSコスタリカ
若き日本代表のワクワクするサッカーを見届けました

長く日本代表を支えた面々が見当たらないスターティングメンバー
ロシアで試合に出れなかった者
最後の最後に置いていかれた者
ロシアにすら行けなかった者
その悔しさをぶつけることを期待している実況の安いセリフを嘲笑うように
ピッチを駆け回る選手たちはただただ楽しそうでした
あの試合を観た人々は皆心を躍らせたんじゃないかと思います

かくして
日本代表は世界に名の知れたスター選手たちの築いた一時代に終わりを告げ
新しい希望の星々が輝く新時代の幕が開けました
まさに理想的な世代交代
しかしきっと王者たちも黙っていないでしょう
さあ日本代表が強くなりますよ
ワクワクします

さて
話は変わって我らがmerph
長くレーベルを代表するアイコンだったスウェットパーカ
今シーズン久しぶりの大幅モデルチェンジを敢行しました
フードの設計に寸法
全く新しくなっていよいよこの週末お目見えです

 

othello

届きました
今年のコート一番手は淑女のバルマカーン

今年の春
青い紳士のバルマカーン
ご来店いただいた多くの女性から淑女用を製作しなかったことに
お叱りを受けました

あれから半年
そんな皆様の声をしっかりと反映し
仕上げました

着丈は春の紳士用とほぼ同じ長さ
襟の大きさもほぼそのまま

生地は一目惚れしたロービング
ざっくりと
大きく交差する白と黒
カラー品番はothelloにしました

散々迷った裏地は
深く怪しげな紫のタフタ

いかがでしょう

追って紳士用も近く届きます

朝のいつも

店頭で全ての仕事をするようになっておよそ半年
繰り返す朝の行動が身に染み込んできて
一つでも抜けると落ち着かなくなってきました

だいたい起床は7時くらい
歳のせいか目覚ましは不要です
二日酔いの朝の方が喉の渇きで5時に目が覚めます
それから軽く朝食をとってcassowaryを目指します

ほぼ毎日
某都市銀行に立ち寄り入金や振込をするのですが
この銀行の警備員のおっちゃんがすごく素敵な方なのです
我々のような頻繁に顔を出す客はほとんど覚えていらっしゃるようで
さらにその来店時間も頭に入っているんです
今日はいつもより早く9時に入店したんですが
私を見つけるやいなや右手をあげて
『お、今日はいつもより早い』って声をかけてきました
操作のわからないご老人に対するちょうどいい温度の言葉遣いと
はっきりとしたわかりやすい喋り方
警備員にしてあの銀行で一番の接客のプロです

その心地よいいつものコミュニケーションをから始まり
店に着いてからは表のトネリコにたっぷり水をやり
その間に湯を沸かし
ゆっくり丁寧にコーヒーを入れます
ドリップパックのコーヒーも
じっくり入れれば驚くほどうまく淹れられます

さあ快晴の月曜日
あの警備員のおっちゃんに負けないように
今日もcassowaryで洋服仕込みながら頑張ります

なんでもないものこそ特別に

仕上がりの面構えはただのロングスリーブのカットソーです
しかし
そのなんでもないものに特別な仕事を施すと
その作品は毎年リリースされるレギュラーデザインとなります

発想は単純なこと
ウールや麻などのコットンとは違う風合いの良い天竺やポンチを使いたいけど
肌にはストレスが強い
一枚仕立てで作れば中にコットンのTシャツを着なくちゃいけない
でも設計の違うものを着れば必ず縫製位置のズレが表に響く

だから
肌ストレスを解決するために40/2コーマ天竺を同じ設計で裏に配したわけです
もう一つの私の洋服作りのルール
『着ていない時も見て満足できる作品であること』
大事にしているこのルールを守るため
表の色に対して美しいコンビネーションとなる色で裏を選んでいます

仰々しいコートも
こういうなんでもない作品も
私が作る価値がないとダメだと思っています

online store KAMMER

MR4123_black

MR4123_terra cotta

 

昨日の自分を超えろ

昨年の最初のコートはこれでした
仕上がりを見て
正直自分が作ったものとは思えませんでした
20歳そこそこでこの業界に入って
あの頃絶対に追いつけないと思っていた恩師達の服の佇まいが出ていたんです
それは決して形や生地を目寝たという意味ではなく
洋服の要素全てで醸し出すものです

今年もあの佇まいが出せるか
やるだけのことはやりました
ひとまず第一弾の職出しはおわり
10月までの納品を待つばかり
常に現状の自分をアップデートできるように
そうするのがものを作る人間の基礎だと思います