ウイングベント

燕尾服ってのは
実に美しいフォルムを醸し出す
しかし
凝り固まったイメージが普段着用する気にさせないと感じる
なんとかあの雰囲気をmerphなりに『噛み砕く』ことはできないか
そう思いながらふんわりと2年ほど過ごしてきた結果
こうなった

しかし
このディテール
その距離が長いと上手くいかない
よって
今のところanimaでしか差し込めない
今回の製作で大体特性を把握した
今後merphにも反映したい

877km

10月2日
朝九時に音楽マネージメント会社の社長をピックアップし
京都東インターへ向かう
二泊三日の山陽地方大遠征は始まった

まず目指すは『神と海の祭り』の開催される美保神社
島根と鳥取の県境
境港に近い『鳴り物の神様』が祀られる場所
六年前から始まった音楽を奉納するイベント
地元出身のドラマーあらきゆうこが主催として立ち
彼女がサポートドラマーとして参加している
Polarisとフジファブリックを従えて?の凱旋ライブ
私はPolarisの衣装を製作し現地入り
十五時入りを目指し西へと車を走らせた
このライブについてはまた衣装の写真が公開可能になってから
ここで詳しく

翌朝
3時まで飲み続けたわりに爽快に目覚めた私は
今回のホテル売りの朝食をいただきに食堂へ
海産物取り放題のバイキング朝食
無計画に取り続けた食材は
結果
海鮮とろろ丼(玉入り)という欲張り全部盛り丼となった
脇を出し巻きとポテトサラダ
イワシのつみれの味噌汁で固め
ここ5年で最も豪華な朝食を構築した
三十分後には次の目的地広島へと向かわなければならないというのに
炭水化物というオーガニックな睡眠薬を大量投与してしまったので
急いで濃いコーヒーで相殺を行った
それでも眠気に不安を抱えていたので
鬼太郎の電車に乗って米子経由で岡山から新幹線に乗る予定だった
音楽マネージメント会社社長を拉致し広島へ向かった
途中何度も襲う眠気を下世話話で吹き飛ばし
三時間の山道を走り抜けた

およそ一ヶ月ぶりの我が大三の要塞は
まだ出来上がったばかりの匂いが残っていた
我がmerphの店ながら
やはりこの店は素晴らしい空間
京都のcassowaryもなかなかだと思うが
さすがにこの広さは嫉妬する
奥のソファー席とカウンターで紅茶とチョコレート
これはなかなかいい
テラスに差し込む柔らかい光と
製作中のドライフラワー
この日は快晴だったが
オーナー下山曰く
雨の日がまたいいらしい

八時くらいまで毎月3日恒例になりそうな
広島店での販売スタッフアルバイトをして
merphのパターンをお願いしている
weiのデザイナー中神さんに教えて貰った地の魚が食える居酒屋へ
オープン前のペンキ塗りにいつも差し入れをしに来てくれた
すでに飲み仲間となった二人を従えて流川へ向かった
その店はカウンター6席と小上がりしかない小さな店だが
衝撃的にうまいかった
そして
安かった
中神さんありがとう
パターンだけでなはなくグルメナビゲイターとしても一級品なり
今後ともよろしくどうぞ

まだまだ夜の流川を流れていきたかったが
最後の359キロは一人旅
しっかり睡眠をとらないと流れ星になってしまう
というわけで
おとなしくホテルへ戻り
荷物を整えてベッドへ飛び込んだ
うまいものと程よい量の酒で
昨夜は久しぶりにぐっすり眠れた

気になっていた台風も1日待ってくれて
今日も雨に降られず先ほど京都に帰還した
今月から私もcassowaryのショップスタッフとしての任務がある
疲れたなんて言っている暇はない
仕上がりたてのトレンチを今日もここで自慢する

 

特別の向こう側

また特別な生地を手に入れました
毎年何かしらオリジナルで仕込んだり
デッドストックから探して特級品を使用していますが
久々に度肝を抜くランクの生地の登場です

普段使う特級もかなりのスーパースターでしたが
今年のこの生地は少し桁違いです
細く軽く手触りの良いウールで織り上げた幅の広いヘリンボーン
滑りさえ感じる感触と
厚さに比例しない軽さ
スポンジのように弾力もあり
ほんの少しある伸縮性がさらに着用ストレスを消し去ります
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デザインはlaluの頃に製作した作品をリデザイン
10年間の色々な経験をしっかり反映させて仕上げました
分厚い生地の文をしっかり計算した微調整もしました
襟の返りや袖振り両玉縁のステッチの美しさ
細部に至る仕様も満足しています
使用した生地
お願いした工場
諸々の理由で決して安くはありませんが
仕上がりに対して値打ちのある金額で仕上げたと思います
2016年のmerphのトレンチコートcommander
店頭配置完了しました

生地発注の勇気

何度かここでも書いていると思う
洋服は3つの要素がしっかりとハマると
化ける
その3つとは
デザイン
生地

どんなに会心のデザインも
選んだ生地によっては縫製に問題が出たり
着用感にストレスがあったりして洋服として落ちこぼれになる
デザインと生地がピンときても
色を間違えると安っぽく見えたり
使い勝手が悪くなったりする
つまり
洋服として存分に力を発揮できないモノになってしまう
でも
その3つの要素が完璧に絡み合った時
製作者自身の満足は当然満たされ
そしてそれは次々と着用者が決まっていく
今年のmerphの秋冬はいつも以上に手応えがある
制作数を絞ってじっくり吟味した甲斐があった
その中でも
冒頭の写真MR4099は会心の一撃
生地が少々高かったので大量に仕込めなかったのが悔いが残る
在庫は倍欲しかった
生地発注の勇気
誰か分けてください

二律背反

スウェットパンツという振り切った快適さと
ナイロンの頑丈な細身のパンツというストイックさ
その相反する二つのスペックを混在させる
merphのパンツがずっと続けている表現です

オーソドックスな30/10裏毛に
これまたオーソドックスなナイロンツイルのパッチパーツを叩いて
同じ黒を素材の違いでコンビにしました
高密度のナイロンツイルは風を遮り
体温を外に逃がしません
その下には全面スウェットがあるわけですから
これから冬に向けてしっかり戦力となるはずです
すでにサイズ3が風前の灯火ですが
1と2は潤沢に在庫がございます
お試しあれ

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自信と自覚

洋服屋は皆それぞれこう言う
『うちは他の店とは違う』
しかし洋服屋で洋服を買うお客さんは皆それぞれこう言う
『洋服屋はどこに行っても一緒』
自信を持つことは大事だと思う
でも自覚を持つことはそれ以上に大事だと思う

僕が考える自分らしさは
今自分の洋服を置く3つの部屋でできているか?
答えは『まだまだ』だ

これからmerphは自分の洋服を扱う場所を自分たちで創っていく
思えば今まで
人様の作った店で自分の洋服を扱ってもらうくせに
ずいぶん横柄な態度だったと”自覚”した
だからもう卸での取引をやめることにした
言ってみれば翼をもがれたような状態のはずなのに
前よりずっと自由に飛べるようになった
翼をなくした瞬間
武空術でも習得したみたいだ
これは洋服を作らない連中に支配された洋服の世界で
やみくもに自分自信の洋服を創っている奴らみんながやったほうがいい
あたらしい方法じゃなく元の姿だ
たった30年前
僕らの先輩はみんなそうやっていた
怖がる必要は無い

merphの店はまたどこかの街へ進撃する
今狙いを定めている街は二つ半
京都と神戸と広島でmerphは健全に成長し
またそこらの洋服屋とちょっと違う”様子”の部屋を
もしかしたら次はあなたの帰り道に創るかも
しれない

中秋のmerph

広島から戻り
余韻に浸る間もなく猛烈に仕事をしています
全身全霊を注ぎ込んでオープンさせた広島the 3rd heimは
想像をはるかに上回る結果を出しています
それにあてられて
京都と神戸もやる気です

明日はアンゴラシャギーのロングジャケットが仕上がってきます
岐阜の工場で仕上げたシンプルですが美しいジャケットです
各街にこの作品を待っている人がいます
生産数も少ないのに特級の工場を使い
名もないくせに極上の生地を選んでいます
決して安くないmerphの作品を
これだけの人が手にしてくれるのは涙ものです

さあ
夏は完全に終わりました
今宵は中秋の名月
生憎の曇り空ですが
秋のmerph
水を得た魚のように参ります

 

紅茶のheim

広島の快進撃はプロ野球だけではありませんでした
我らがmerphの第三旗艦店
the 3rd heimの進撃も止まりません
連日の売上高に京都と神戸の在庫が日々吸われていきます
負けるわけにはいきません
気合を入れて先輩の意地を見せます

さて
その第三旗艦店の特徴をもう一つ紹介します
オーナーの下山は数年前から紅茶にはまり
紅茶店のオーナーに教えを仰ぎ
美味しい紅茶を淹れられるように修行しております
今回真っ白な壁と紺碧の絨毯のthe 3rd heimをイメージし
カクテルのブルーハワイを模した香りのブレンド紅茶を用意しております
顧客様にはそちらも
この写真のカウンターやソファー席でお楽しみいただきたいと思っています
京都はオーナーである私の嗜好の影響で
無数の酒が並んでいますが
広島は甘い紅茶の香りのする店となっていくでしょう

広島は観光で訪れても非常に楽しい街です
瀬戸内海の海の幸
しのぎを削る無数のお好み焼き屋
もうすぐ名物の牡蠣もメニューに並ぶそうです
そんな強敵の中でthe 3rd heimも
広島に行ったら寄りたい場所になりたいと思っています

奇跡が簡単に起きる街

広島から戻りました
あらゆる奇跡と呼びたくなるような出来事が多発
自分の引きの強さに少々引いてしまうほどの4泊5日でした

まず8日(初日)
広島カープを愛する京都人が前乗りで広島入り
その京都人
チケットもなくマツダスタジアムにやってきて
外からフェンスにへばりついて応援しようとしていたところ
スタジアムの中から歩み寄ったおっさんに
『やるわ』とチケットをタダで譲り受けるという奇跡(奇跡①)
これがすべての始まりでした

しかし
この友人の引きがイマイチ弱かったのか
空気の読める我らが中日ドラゴンズは
見事に広島三連戦を三連敗したものの
空気の読めない阪神は巨人にまたして負けてこの日の優勝はお預け
友人はマツダスタジアムを後にして
東京の仕事仲間に紹介された店で先に飲み始め僕を待っていました
仕事を終えて到着した店は前回広島スタッフに紹介されたけど
休みで伺えなかった居酒屋(奇跡②)
店の大将に25年前の優勝の時の大混乱話を聞き
大いに盛り上がってから
二軒目に訪れたのは
花とギター
広島を代表するパンクバンドのら犬の足袋井さんの店
僕はこの人の歌うアイナハイナという歌が大好きで
すでに耳コピしてソラで歌えるほどの状況
アイナハイナという店を出した後輩のために作った歌
しかし彼は仕入れの途中に事故で亡くなって
アイナハイナは名前を変えて別の人が引き継ぎもう無いと聞いていました
足袋井さんに十日市に店を出すと話して場所を伝えたら
なんと我らの3軒隣がかつてのアイナハイナだったと判明(奇跡③)
その後次から次へと訪れるお客さんと盛り上がり
千鳥足でホテルに戻り
数時間仮眠をとってレセプションを迎えました

そして当日
午前中から我が社の写真を色々撮ってくれている森川くんが10時に到着
まず店舗撮影を開始
その後15時前にスペシャルゲストオオヤユウスケ到着
盟友がライブのリハをしていると
料理を担当してくれた広島の葛(カズラ)の田中さんが
料理を搬入に来てくれて
オオヤユウスケをみて何やらそわそわしています
僕にあの人何て人だと尋ね
すぐさま携帯で検索
そしてオオヤユウスケが
元LAB LIFEというバンドをやっていたことを知って大興奮
若い頃
周りにLAB LIFEのPVをダビングして配って聞かせていたほどの大ファン
憧れの本人に会えて大盛り上がり(奇跡④)
アメリカの大手航空会社の機内食もプロデュースする有名料理人が
少年のようにはしゃいでいました
そんな熱気の中で始まった9.9のお祭り
京都からやってきたソリレスとせくめとのバーカウンター
”ソリめと”も大盛況
田中さんの料理も大好評
オオヤユウスケのライブはいつにも増して美しく
最後には調子に乗って私までハナレグミ
大成功のオープニング祭り
実質3時間しかなかった販売のタイミングで売れた金額をきいて腰をぬかし
祭りの後も明け方まで広島のスタッフとオオヤユウスケと僕は酒を酌み交わし
気がつけばまたして午前5時
フラフラのまま9月10日いよいよ本オープン

昨日の嵐が嘘のように静かな店内
それもそのはず広島にある100万人の200万個の目玉は
東京ドームで行われているそれに釘付けです
店がある程度の売り上げを上げたところで
僕も金沢からきている友人と街へ向いました
二軒目に訪れた居酒屋
初日に伺った奇跡②の居酒屋で歓喜の時を迎えることになります
隣で送別会をしていた
旅客機を作っている会社のおっちゃん達が店中にビールを配る
そしてその会社の女性社員(元名古屋のバーテンダー)の大号令の元
優勝を祝う乾杯!!
そう
the 3rd heimのグランドオープンの日は
広島東洋カープ25年ぶりの優勝の日となりました(奇跡⑤)
ちなみに隣のおっちゃん達の主役
つまり今月で他社された方(射場『いば』さん)は
その会社に入ったのが25年前広島が優勝した年で
退社がまたしても広島が優勝した年に成る奇跡
次に優勝する時は死ぬ時だ!!
と言った後
『めざせ連覇!』と言うてました
長生きしてください

店を出るとそこはレスター優勝に負けずとも劣ら無い赤い歓喜の人だかり
道行く老若男女
強面ヤクザも生真面目ポリスもハイタッチ
なんなんだこれは
日本一のファンを持つのはこの街の球団だと思った
またしても朝まで飲むことになった中日ファンのデザイナー
泥のような顔色で最終日日曜日の店に出勤
優勝セールで沸く街中の喧騒をよそに
落ち着いた白い部屋
でも
熱心に洋服を選びに来るお客さんは絶え間なく
アレヨアレヨという間にベストやコートやニットが消えていく
そして22時店が静かに閉店
そこには疲れ果てた広島のスタッフと
打ち上げ用にとった出前の中華
お祝いでいただいた数百本の黒ラベルがありました
薄々感じてはいましたが集計を出してみると
その金額は
オープン前に立てた9月ひと月分の目標金額
たった三日で第三のmerphの店はひと月分の売り上げを上げてしまいました
これ最大の奇跡なり(奇跡⑥)
洋服の世界に身を置いて
こんなに興奮した数日間を過ごしたのは初めて
名残惜しさ全開で先ほど京都に戻ってきました
そんな広島駅に向かうタクシーの中で最後の奇跡
土曜日に昼飯を食おうと店の向かい側に渡って散策している時に
綺麗な蕎麦屋を発見
残念ながらまだ内装工事中だったのですが
そのタクシーの運転手さんと
僕が今回広島の優勝の日に十日市に店を出したことや
京都から来たことを話したら
『そういえば昨日乗せた兄ちゃんも京都から来て
9月16日におたくの店の向かい側に蕎麦屋を出す言うてましたよ』
なんと同じ月に京都から十日市の同じ交差点に店を出す男達(奇跡⑦)
まだ見ぬこの店主とは来月から飲み仲間になれのではないかと思います


長々と最後まで読んでいただいた皆様
ありがとうございます
広島
奇跡がそこらじゅうに転がる街

冒頭の写真は広島店オーナー下山匡樹(シモヤママサキ)
この男
写って無い頭の半分下にちょっと秘密がございます
広島にいらっしゃる際にご確認ください

最後にお詫び
the 3rd heimもこちらのブログに参加する予定ですが
未だご挨拶できておりません
理由は先も申し上げたとおり
あまりにも売れておりまして全く追いつか無いのです
後日改めてご挨拶いたします
これからは
京都cassowary 神戸ammon 広島the 3rd heim
merphの三連星として
よろしくお願いします

heim

開店直前
午後12時45分
the 3rd heim
一番奥のスペース
L字のカウンター
IDEEのソファとジャスパーモリソンのコーヒーテーブル
広島のボス下山の入れる紅茶をここでいただく
広島のどこにもない洋服店
事務所を広島に移したくなるほど
cassowaryだってそこそこ居心地のいい空間だと思うが
さすがにここにはかなわない
嫉妬すら感じる
事務所を広島に作りたいとまで思う
いい部屋すぎる