11年と2年半の物語

朝からずっと仕込み仕事をこなし
少し疲れたのでアーロンチェアをリクライニング解放し
天井を眺めていて気づきました
このコンクリートの箱庭は
来週で11周年です

今シーズンから原点に戻り
私自身が店頭に立ち接客をする時間を増やしました
ほぼ毎日店頭の片隅に作ったデスクにかじりつき
お客さんがいらっしゃったらルームサンダルのまま接客をすると言う日々です
まさに寺町御池の老舗ふとん店の二階でSanctumを始めたあの頃のようです
白髪と体重は増えましたがこのやり方は変えられないようです

11年
寺町御池での2年半を合わせると13年半
一体どれだけの方々にお越し戴き
そして洋服を買っていただいたか
単純に数字で把握せずとも
この半年ここに立ち毎日のように起きる嬉しいエピソードで実感しました

アメリカ フランス イスラエル デンマーク
オランダ ドイツ メキシコ ブラジル 香港
台湾 スイス シンガポール
今思い出すだけでこれだけの国にリピーターがいらっしゃいます
宣伝もせず取材も受けないのに
京都へ来るたびによってくれる方がすでに世界中にいます
大きなレーベルでは驚くことじゃないでしょう
でも私はこれを京都の街角に店を構えるだけで成し遂げました
もちろん海外だけじゃありません
ここで私の洋服を見つけてくれて以来
何年も通ってくれて
彼女ができて結婚し
子供を連れてまた戻って来てくれて
ここでは毎日誰かしらとの出会いとその続きの物語が溢れています

11年
そしてこれからも同じような日々を積み重ねて
meprhというただの洋服を
皆様にお召しいただける様
多少の困難は飲み込んで
大きなピンチは打ち砕いて
前にジリジリと進んでいきます

黙祷と敬意

私の生まれた名古屋も
戦時中は辺り一面焼け野原だったと聞きます
祖父もシベリアで捕虜となり
当然生まれる前の出来事とはいえ
戦争の存在は私の世代にも影を落としていました
その影は広島に比べれば大きくはありません

広島のmerphの部屋はあの日
悪魔の兵器が炸裂した真下にある原爆ドームから歩いて5分ほど
おそらくあの日何もかもが吹き飛び
焼き尽くされた場所だと思います
今その街から感じ得るものはその惨劇ではなく
その地獄から立ち直った人々の生命力です

私たちの国の歴史で最も悲しい日ですが
犠牲になった人々への黙祷を捧げるだけでなく
ここまで立ち直った生き残った人々への敬意も払い
ご縁をいただき関わることができたこの素晴らしい街に
恥ずかしくない部屋にしていきたいと思います

feat.M

もう一年半くらい前に言い出した企画が
ここに来て活発に動き始めました

広島は自分たちの店のピックを作り
素晴らしいパーカを企画しました
これに負けじと
merphはある音楽家と一緒にあの作品を創ります

お披露目は10月になるでしょうか
ご期待ください

京都の引力

東京から新幹線で岡山へ向かう音楽家に
京都駅で途中下車してもらい
名古屋からギターメーカーさんにも参加してもらって
京都駅ビルの11階で昼食を取りながらの製作会議
初めてお会いしたギターメーカーのY氏は
偶然にも私の高校の先輩でした

京都という街は
わざわざこちらから出向かなくても
皆さんが来てくださるんです
それが狙いでここに腰をすえたわけではないですが
先人たちの作り上げたこの由緒ある街に助けられています

洋服を創る者として
やはり海外に進出というのは夢の一つになります
しかし
ここ京都で毎日たくさんの外国人の方にお買い上げいただいてるうちに
その意味さえなくなって来ました
海外のコレクションに出たところで
それほど洋服は出回るわけじゃありません。
私の力不足も認めますが
過去に勤めたレーベルでその苦労と不毛感は存分に味わいました
海外の卸売なんて博打ですから
中間に入った業者が金持って逃げるなんて
中日ドラゴンズの勝率よりはるかに上です

cassowaryには
宣伝もしてないのに
海外の方が続々いらっしゃいます
大金使ってパリだのフィレンツェだの行くよりも
この街でじっくりと洋服を創り続けていた方が
結果的に私の創るmerphは海を渡って行くんです

先鋒

こちらも女性用を製作しました
薙刀でも構えさせたくなる仕上がりです
男性用とデザインは何ら変わらないのですが
ちょっと着丈の比率を変えています

色だけでなく
起毛のかかったしっとりした肌触りも気に入っています

男性用のMR2070とともに
今年秋の先鋒好調です
外套製作を得意とするmerph
いよいよざわついてまいりましたよ

女流小説家

夏がこれから本番を迎えようとする中
店頭に届いた”novelist”
春の前モデル”bookman”があまりにも女性に人気があったため
今回はしっかりと女性のサイズを製作いたしました

merphの公式instagramでも素早い反応をいただき
猛暑と台風に襲われる中
毎日売れております

先日過去のスワッチを眺めていたのですが
1シーズンに震えるほど多くの型数を製作していました
しかし
今見ると型数を作り込むことに追われて
ちょっと詰めの甘い作品が紛れ込んでいると感じました
あの頃はあれが精一杯だったんで
決して手を抜いたり妥協していたわけではないのですが
細かいところに気がつけなかったんだと思います
あれから環境を自ら変えて
直営店でのみ販売するようになったmerphの作品は
型数こそ半分以下になりましたが
作品としては大きく成長したのではないかと思います

今年の冬もご期待ください
みなさんを満足させる作品を必ずお届けします

理論上シャツ

春にリリースした”bookman”というデザインのロングシャツを
さらに着丈を伸ばし(120cm)
袖口のオーソドックスなシャツのディテールを削除しました
目指したのはバスローブの雰囲気

しかし仕上がりは私のイメージをしのぎ
立派なコートとなりました
気軽に作っても仰々しい
これはもうmerphの個性です

これまでこれをシャツと言い切る私の態度に
文句を言いながらも縫い続けてきた工場も
さすがに今回は生地の厚さと縫いあがりの迫力から
『これはもうシャツ工賃ではぬわんよ』と怒っていました

工場の皆様
おかげさまでMR2069好評です
来シーズンはまた生地を薄くしますので
なんとかまたお願いします

エンタープライズ

18時前に車で北大路通りを西に向かった
まっすぐ左大文字へと伸びる通りの上に空が開ける
その西の果てに
大きな円盤を確認
おそらくあれはスーパーセル
発達した積乱雲の上の部分だと思う
その姿はまるで
そう
スタートレックのエンタープライズ号のようだった

夏は苦手だ
でも
夏の空は好きだ
できればこんな季節に大自然に身を投じて
ただただボーとしたいところだが
夏は秋の前に来るわけで
秋といえば我々merphの主戦場であるから
ここでのんびりしているわけにはいかない
平日はmerphのデザインと生産の最高責任者として
週末はcassowaryのトップセールスマンとして休みはない
身勝手な服を創る者として
誰よりも策を練り
誰よりも現場で服を売る
まさにエンタプライズ号のピカード艦長のように
乗組員の誰よりもまず先に立つのだ

灼熱の7月の末の木曜日
今日も朝から決断と躊躇の攻防戦
創るには金がいる
創らなかったら金にならない
『安くごまかして利益を上げろ』
そんなことができる相手はうちには来ない
自分でそういう店にした
だからやっぱり休まず働くしかない
貧乏暇なし
表現者の休暇は死んでからだそうだ

気高い青

藍色と紺色の2色の糸が混じり合う美しいヘリンボーン
私は武道着を思い浮かべました
ちょうど新しく起こしたデザインの襟元は
まさにそれに見える仕上がりです

形は昨日ご紹介した赤いチェックとウォルナットのコンビネーションのシャツと同じ
着丈の長いガウンのようなロングシャツです
店頭に出した途端
京都でも広島でも早速お買い上げいただきました

『暑くて秋物なんか見る気がしない』
そう言われる中で新作が売れる快感
これぞデザイナー冥利というものです

ここ一ヶ月
生産のやりとりはかなり慌ただしく
何かを常に新しく仕込んでいる状況です
仕入れた生地の金額に毎夜悪夢にうなされながら
現場で気前よくご購入いただく皆様に勇気を頂いております
くじけそうな時は
大好物のサッポロ黒ラベルを飲んで
そのキャッチフレーズ
『丸くなるな星になれ』を心でつぶやき
また新しい発注書に数字を書き込んでいくのです

今日も全くもって暑い京都
それにも負けずご来店いただける勇敢な方々のために
クーラーで部屋をしっかり快適に冷やし
冷蔵庫に冷たいコーヒーと紅茶を用意して
cassowaryオープンいたします

novelist

灼熱の中
失礼いたします
merph
そう冬将軍merphのデリバリーを始めさせて頂います

先に追加で生産したリバーシブルベストに続きまして
ウールの赤いチェックと
ウォルナットの少しムラのある糸を使ったツイルのコンビネーションで
ラペルのないロングシャツを作りました

春にも製作した形から
さらに着丈を長くして
袖口のカフスやケンボロを無くして
ガウンのような姿になるように仕上げました

春からあまりにも女性に人気だったので
今回はしっかりanimaでもエントリーしました

暑い日が続きますが
夕方からでものぞいてください