一文無しは早く起きろ

まだ肌寒い
というより
寒い

今日は四時に起きた
和食の朝食を取り
一本映画を見てから出勤
それでもまだ午前十時
この清々しさと
同時に襲う普段への猛烈な後ろめたさ
やはり
人間朝早くから仕事して
腹すかして昼にうまいもん食う
それがいい
当たり前のことがずっとできてなかった
一文無しでも早起きすれば三文持ちになれるはずだ
三文は現代の貨幣価値に直すと100円くらいらしいから
一年続けりゃ36,500円徳をするんだ
そういうとこから意識改革
不良経営者の根性を叩き直す


気合を入れたところにサンプル登場!

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しかし2型出来悪し!
直ちにセカンド製作始動!
このくらいで挫けない!
3型は問題無し!
明日のサンプルはきっと美しいはずだ!

オーロラマダン

iTunesの”FOR YOU”に出てきた懐かしのバンド
“echobelly”
ケルトやノルディック民謡のようなメロディーに
少しパンクなギターロック
そして
何よりもインパクトがあったのは
ボーカル”ソニア・オーロラマダン”
インド系のイギリス人の美少女
元キックボクサーの異色の歌姫
彼女の独特の低めの声と歌い方
たまらなく好きだった

とにかく毎日くらい聴き続けたアルバム
“Everyone’s got one”
今日はcassowaryにてこれを大きめの音で聴いている
大学の2回生のとき
このバンドのinsomniacって曲をやりたくて
わざわざどっか他の大学の女の子入れたの思い出した
名前なんていったけな
ぞっとするが20年前の出来事だ

それにしても
さっきからずっとこのアルバムを聴いているが
全曲好きだ
そんなバンドこのバンドとゴダイゴくらいしかなかった
今日家に帰ったら間違いなく
何曲か譜面探して弾いてみることになる

アップルさん
ありがとう

デッドエンドスターター

やまない雨の水曜日
しずかな水曜日
我らはせっせと冬仕込み

もう3月
またもや展示会
早すぎる流れと
変わらない日々
脳みそが腐るんじゃないか
筋肉が溶けるんじゃないか
無駄な心配を繰り返し
無意味な決意は垂れ流し
それでも縫いあがったmerphに興奮し
甘ったれた心に往復ビンタ
土壇場に来て最大出力全速前進
分刻みの決断と冴え渡る代替案
この10日間の集中力を
なぜ僕は3ヶ月前にできないのか
嘆いていても始まらない
関係各所に頭を垂れて
今はとにかく休まず進め

そんな日々が続いた
ようやくすべての品番の何某がはめ込まれて
あとは上がりを待つのばかり
今度のmerphはどうなるか
どうか強く美しく
一目でmerphとわかるよに
工場の皆様
よろしくどうぞ

 

塹壕外套

長引いた冬が終わった
合わせるように春の作品が届き始めた

その中から本日はトレンチコートをピックアップ
これまでのmerphでリリースしてきたものと
完全に異なるフォルムの新作

シルエットは緩くAラインに開き
肩幅いつもどおりだが
身幅も少しとってある
そして何より後ろのウィングベント
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このディテールがしばらくmerphのアイコンになるので
お見知り置きを

一見変わったディテールではある
しかし単純に変わったことをやろうというわけではなく
このアイデアにより
洋服は動きを手に入れて
さらにベントの機能も備わって
着用者も動きが取りやすくなる
しっかりと物理的なメリットがある

生地に選んだのは60/2スーピマで織り上げたバーバリークロス
ある程度のしなやかさと張りを共存させている
”ちょうどいい”バーバリー
控えめで艶やかな光沢もよし
いつもとちょっとちがうmerphのトレンチ
よろしくどうぞ

 

 

チューリッヒの悪夢

スイスでルックブックを撮影することになり
撮影のスタッフとチューリッヒへ向かった
現地で手配したモデルさんはまっすぐな金色の長い髪の毛に
少し冷たい目をした超美人
緊張しまくったが話しかけてみると
見た目に反してものすごくよくしゃべる陽気で気さくな人だった
その上彼女はデンマーク人で
同じくデンマーク人の彼氏の心臓外科医について
スイスに移住してきたらしく
僕がデンマークに友達がたくさんいて
コペンハーゲンにも行ったことがあると話すと
故郷の話に嬉しくなったのか
今日彼が迎えに来るから
一緒に食事に行こうと誘ってくれた

彼は僕と同い年
メガネをかけて素朴で優しい顔をしていた
オススメのレストランはスイス料理ではなかったが
アンティークの家具に囲まれた落ち着く店で気に入った
お互いの仕事の話
僕の洋服の話
コペンハーゲンの話
それから今住んでいるところが京都だと話すと
彼らの目が輝いた
やはりどこの国の人にとっても京都は魅力的な街らしく
来年必ず行くから案内してくれと言われた

うまい肉料理でワインを飲み
その後一軒賑やかなバーに行って
得体の知れない無色透明の酒を何杯か飲んだ
明日は午後から手術だというのに
大丈夫なのか?
そう聞くと少し彼の顔色が変わった
興ざめなこと言ってしまったと謝ろうと思ったが
すぐにまたにこやかになり
明日の朝食も一緒に取ろうと誘ってくれてた
お言葉に甘えてよろしく頼むと握手をして
朝10時に待ち合わせしてその夜は別れた

朝は恐ろしくすぐにやってきたが
恐れていた二日酔いもなく
遅刻せず待ち合わせの場所に着いた
彼らはもうそこにいた
大きなインテリアショップの併設カフェで朝食を食べた
その後
勧めてくれた展望台に登ることになり
上から僕らを探してくれと言われたので
最上階から下を見ると
さっき帰り際にインテリアショップでこっそり買っていた
ブルーのペーパーナプキンで
大きなスマイルマークを作って手を振っていた
照れ臭かったけど嬉しかった
彼らのおかげで何も計画していなかった撮影以外の時間も
思いがけず楽しい時間となった

滞在は10日間で撮影は3日で終わったが
僕はアンティークのボタンや生地を探してしばらく残っていた
その間も何度か彼らは食事に誘ってくれた
心強い案内役を手に入れたおかげで
収穫は予想以上のものになった

しかし楽しかったチューリッヒの旅は
ある夜一変する
帰国を三日後に控えた深夜
ホテルで荷物を整理していると
誰かがドアをノックした
スコープを覗き込むと
一瞬見間違えるほどの荒んだ姿で
怯えた様子をしたモデルの彼女が
目をぱんぱんに腫らし
そこに立っていた
とりあえず中に入れてはみたものの
泣きじゃくって何を言っているかわからない
暖かいお茶を飲ませて落ち着かせる
15分か30分だったかソファで小さくなって座っていた彼女が
小さな声でこう言った
『彼が殺された』
そんなセリフ実際言われてみると
冗談にしか聞こえないものだ
拙い英語で必死に話をすると
彼はある心臓の新薬の欠点を見つけ
それを暴露しようとして
学会の直前に殺されたらしい
ハートが四つに割れたマークの製薬会社
その会社の心臓の血流を促す薬が
心筋に大きなダメージを与えることを彼は見つけてしまった
そのすべての証拠の隠し場所を留守電に残して
彼は昨夜
雪の降るチューリッヒの街の路地裏で
数人の男に強盗を装い殺された

彼女も狙われている可能性がある
だから証拠と一緒に僕のホテルに逃げてきた
友人や仕事仲間の家も危ない
実家はデンマークだ
だから旅行中の僕のホテルが一番安全だ
警察に行こうと諭すが
警察にも手が回っているからダメだという
そして彼女はとんでもないことを言い出した
明日開かれるその会社のパーティーに忍び込み
彼が残した証拠を来場するマスコミや
医療関係者に配るから僕に手伝って欲しいと
泣きながらも
ものすごく怒りに満ちた強い目で頼んできた
恐ろしかった
でも
彼の無念を晴らしたい
その思いが震えを止めた
僕は頷いた

引き受けたのはいいが
忍び込むにも僕は日本からの渡航者
彼女は顔がわれている
どうやって忍び込むのかと聞くと
まず僕の髪の毛を後ろで束ね
黒ぶちのメガネをさせて
彼の同僚の中国人医師のIDを手渡した
そこにある顔写真
確かに雰囲気は似ている
完璧ではないが欧米の人間にはすぐにわからないかも知れない
僕はこれでいけるだろう
問題は彼女だ
あまりにも彼女は美しく目立つ
明日では太るにも時間はないし整形もできない
すると彼女はカバンからハサミを出し
バスルームに向かい
長く美しいかった金色の髪の毛をばっさりと切り落とした

という
夢を見ました
スイスで製薬会社がらみの医療サスペンス設定
展望台でのエピソード
ハートマークが4つに割れたシンボルマークのデザイン
我ながら自分の脳みその妄想力と
それを事細かに覚えていたこと関心しつつ
寝ている間ではなく
起きている間にもっと働け我が脳みそよと思いました

本日
その脳みそで考えた
新作トレンチコート
入荷します

 

 

 

右から二番目の白いグルチッチ

カウンターで温かい珈琲を飲みながら
地味な作業が続くこの頃
いろいろな資材を選び手配して
サイズが合わなければ手作業で改造していく
手のひらに豆のできる日々
洋服の制作現場はかくも地味なものである

吹雪のスタートとなった三月
さあ春だと気合を入れた矢先の白い礫
以前も四月に降雪があった京の都
スギ花粉も相まって
なんだか非常にやりづらい日々が続く

本日は新しいカテゴリーへの挑戦を始めるため
午前中から打ち合わせ
果たしてうまくできるだろうか
じっくり話聞いてこよう
終わったらまたカウンターに戻って
定位置(右から二番目の白いグルチッチ)で珈琲を飲みながら
長すぎるファスナーのムシをむしり取る

 

 

はじめの一歩

二月が終わった
閏年の29日
京都は夜半から雪になった
トラブルで駆けずり回って最後に雪に襲われて
踏んだり蹴ったりだったが
いいこともあった
書くほどのことでもないが
実に大きな進歩だ
長くかかったが今度こそ本物だと願う

 

そこに金色

昨年の秋冬から
裏地選びの決まりごとを壊した
それまで裏地はあくまで脇役として
地味で控えめな色を選ぶようにしていたが
多い切って配色をしてみるようになった
黒にはグレー
条件反射のように決めていたところを
ネイビーブルーを使った
グレーのヘリンボーンにワインレッドを使った
なんだかもう一つ遊び場を見つけた気分になった

そして今回の春夏最初の作品には
金色の裏地を使った
春の風にあおられて
チラリとのぞく金色の裏地
グッとくるでしょう

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その新作の解説を少々
シングルライダースをウエストのシェイプをなくし
着丈をハーフコートの長さにして
裾にドローコードを廻らせて
コクーンシルエットに変貌できるようにした
しかし袖の湾曲はライダースのまま
脇の下の唇型のマチも施した
春先のリラックスしたサイクリングにも着ていけるように

素材はバックサテン
すこしヌメッとした肌触りの美しい素材
色が何より重要で
品のあるアイボリーを探して行き着いた
光沢 質感 発色全てが求めていた通りの物
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もう一色は黒
裏地はネイビーブルー

両色とも素晴らしい面構え
納得の出来栄え
merphの2016春
ようやく開始

破城槌

季節の変わり目
静かなcassowaryでじわじわ進む秋冬の製作
やってみたかったこと
やって後悔したこと
やらなきゃいけないこと
惚れ込んだ生地
渾身のデザイン
いろんな素粒子が衝突して
やがて固まって新作になるわけである

この作業の中で最大の敵が
『ま、いいか、これで』という決断
時間に追われて
生地がはまりきらなくて
予算が足りなくて
完全に納得せずサンプルを製作してしまった場合
それが思いがけず売れたとしても
傷跡として残る
それなら完全に納得して全くオーダーが付かない方が心地よい

なんでもかんでも好き勝手に手配できて使えるわけじゃない
限られている中で
限られてることを言い訳にしない仕上がりを目指す
今日は根性で一つ壁を突破した
あの瞬間の気持ちの良いことよ
つまらないものしかできないのは
とことん考えなかったからだ
手を抜いたんだ
それは自分でよーく分かっている

一発でいいアイデアが出ることもある
一発でなければ何発でも頭の中でアイデアを出し続ける
いつか必ず自分独自の答えが飛び出す
それをやれるかやれないかだ
つまらない姑息な物でもうまくやれば売れるのだろうが
そんなもん面白くもなんともない
明日もきっと出る
考え続ければきっと出る

大人の階段

東京から帰り
しばらく祝い事や打ち上げに打ち合わせで飲みに出ていたが
ここ数日自宅にこもり酒も飲まず事務作業
後悔先に立たない会計処理
一年の諸々を遡り
領収証に通帳の確認に請求書の仕分け
ようやく今日終わりが見えてきた
今夜は美味しくお酒を浴びる

東京に行っている間に
さらりと迎えたSanctum12年目
相変わらず存続をかけた戦いが続く零細企業
今年はあえて成長を口にしないで
無駄を省く年にしようと思う
5−4で勝つのと2−1で勝つのは
得失点は一緒
12年といえば小学校を卒業する年
反抗期を終えてそろそろ思春期を迎えるSanctum
自分の内面と向き合って
大人の階段を上る