並木橋

洋服の世界に入ったのは大学の三年生の冬
突如目の前に開いた普通な大学生には非現実的な世界
京都にいながら
その当時の洋服業界の中枢と接する時間は
同じ仕事に携わっていた京都で働く仲間たちに
随分と嫉妬された
でも
当の本人はそれに浮かれる暇などなく
あの怪物たちの中で
無知な若造が通用するために
がむしゃらに食らいついて毎日ボロボロになるまで頭を使った

21歳のあの頃の私は
親の反対を押し切って
全く勉強をしてこなかった洋服の制作を志し始めていた
真面目な両親にとって
デザイナーなどという職業は
あまりにも未知の存在で
何一つ安心する要素がなかったのだろう
それでも我慢して見守ってくれたのは感謝している

あれからいろんな経験をして
今小さいながら洋服のレーベルを構え
会社をやっている
しかしまだまだ全然安心はさせていないのが恥ずかしい

2017年も残す所半月となった
今年は卸をやめた最初の一年
展示会をしなくなった私は
かつて毎月のように行っていた東京にほとんど行かなくなった
そこで先日
世話になっている先輩の店の8周年のお祝いをメインテーマに
ずっとお世話になってる人たちに挨拶に行ってきた

東京に行って
何か刺激を受けるってことは
もうない
そんな感じの制作もしていないし
それができたらもうちょい賢いやり方をしてる
それよりも東京に行って
かつての職場や遊び場を回ると
がむしゃらだった頃の自分のことを思い出す呼び水になる
中目黒
蛇崩
並木橋
今回も三日間のほとんどをその辺りで過ごした

やはり
あそこに戻りたいと思う
いつか
そうなるといい
2017年は
とりあえずそう思うところまでにしておく

いい出張だった