展示会が終わって
ご褒美がてらに福松で黒ラベル
その帰り
じぐざぐじぐざぐ
北山の家まで自転車をこいだ
留守にした間に気温が下がり
空気が少し抜けていて
こげどもこげども進まない
ゆっくりゆっくり
ようやく北大路を越えて後少しの所までやって来たとき
目の前に現れたのは見覚えのあるマンション
大学時代
ユウイチと二人で四六時中作曲に明け暮れた102号室
ユウイチがバイトに行く間
僕がメロディーを作って
僕が大学へ行く間
ユウイチがコーラスを入れて行く
いくらでも時間があった

昼は安い弁当食って次のコードを議論して

夜は梅酒とポカリスウェットのカクテルを延々と飲みながら
もやしと豚肉を炒めてつまみにして
朝まで苦手な歌詞を書いた
その後
僕はあっさり洋服の世界に鞍替えしたが
ユウイチは夢を叶えてデビューしてた

でも

バンドは上手く行かなかったらしく

ユウイチは作曲家になったと噂で聞いた

それから何年か経ったある日

多分どうせ朝まで飲んで夕方まで寝ていた休日

何気なくテレビを見ていた
タランティーノもファンだと言う吸血鬼のアニメ
女子高生が刀で吸血鬼を殺しまくるストーリー
自身も実は吸血鬼
そのテレビ版の第一話
特別面白くもなかったがとりあえず最後まで見届けて
流れ出したエンディングテーマ
元ちとせの出産後復帰第一段シングル
イントロから何か耳なじみが良かった
メロディーが進むに連れて何かザワザワして来る
作曲者を見なくちゃと思った
そこに書かれた名前
田鹿祐一
やっぱりユウイチだった
興奮した
直ぐ電話をとった
ヤツは出なかった
後日かけ直してくれた
『わかったか、やっぱり』
だって
ユウイチは今も作曲家をやっている
ちょっと前も
頑張っている
ユウイチの曲はさみしいのが多かった
童話みたいなさみしさがあった
夕方や小雨が似合う曲だった
今でも一曲一緒に作った曲で覚えているヤツがある
歌詞は忘れたけど
今日は夕方にあの曲をグレッチで弾いてみようと思う
タイトルは確か
『runaway home』
はずかし
10月29日

始まります