911

あの日は予定も無く

原宿のショールームからまっすぐ家路についた

冷蔵庫の食材も豊富だったので

甲州街道のやまやにも

不動商店街のスーパーにもよらず

マンションの一階のローソンで明日の朝食のパンだけかって8階の部屋へ上がった

冷蔵庫の中にあったビールをグラスにそそいで

晩飯を作りながらテレビを見ていた

たしか

中井貴一主演のドラマだった

やんちゃな人気カメラマン役が違和感満点で良く覚えている

出来上がった夕食をダイニングテーブルに置いて

二本目のビールを開けて飲みだした時だったと思う

ドラマが突如切り替わった

一瞬煙突かと思ったが

すぐに双頭のビルだと脳味噌が認識を修正した

暫く声も無く映像だけだったところにアナウンスがようやく入る

『ワールドトレードセンターに旅客機が衝突した模様です』

弟の誕生日を岐阜の爺さんの家で祝っていたあの8月12日を思い出した

すぐに当時一番一緒にいたスタイリストへ電話

彼女もテレビを見ていた

『次は都庁じゃないの?あんたんちかするんじゃない?』
冗談ではなく本気で心配になった

などと話しているところに

二機目の衝突

その瞬間を生で観てしまった

テロなんて想像もできない事

でもこれがそうだと学習した

僕の人生においてのテロの基準となった

それからずっとテレビを見続けた

救助の状況

ビルを見上げる人々

アラブ人に声を荒げる人

舞い散る書類

そのなかに紙とはまったく違うスピードで落ちる黒い影

最初分からなかった

それが人間だって事気がついて震えた

不謹慎だが

最初とんでもない事故に心がざわついた

でも次第にその浮ついた反応を反省した


事務所で昼食をとりながらオリヴァー・ストーン監督が描いた

『ワールド・トレード・センター』

を観ている

それであの日の事をちょっと思い出した