破城槌

季節の変わり目
静かなcassowaryでじわじわ進む秋冬の製作
やってみたかったこと
やって後悔したこと
やらなきゃいけないこと
惚れ込んだ生地
渾身のデザイン
いろんな素粒子が衝突して
やがて固まって新作になるわけである

この作業の中で最大の敵が
『ま、いいか、これで』という決断
時間に追われて
生地がはまりきらなくて
予算が足りなくて
完全に納得せずサンプルを製作してしまった場合
それが思いがけず売れたとしても
傷跡として残る
それなら完全に納得して全くオーダーが付かない方が心地よい

なんでもかんでも好き勝手に手配できて使えるわけじゃない
限られている中で
限られてることを言い訳にしない仕上がりを目指す
今日は根性で一つ壁を突破した
あの瞬間の気持ちの良いことよ
つまらないものしかできないのは
とことん考えなかったからだ
手を抜いたんだ
それは自分でよーく分かっている

一発でいいアイデアが出ることもある
一発でなければ何発でも頭の中でアイデアを出し続ける
いつか必ず自分独自の答えが飛び出す
それをやれるかやれないかだ
つまらない姑息な物でもうまくやれば売れるのだろうが
そんなもん面白くもなんともない
明日もきっと出る
考え続ければきっと出る

大人の階段

東京から帰り
しばらく祝い事や打ち上げに打ち合わせで飲みに出ていたが
ここ数日自宅にこもり酒も飲まず事務作業
後悔先に立たない会計処理
一年の諸々を遡り
領収証に通帳の確認に請求書の仕分け
ようやく今日終わりが見えてきた
今夜は美味しくお酒を浴びる

東京に行っている間に
さらりと迎えたSanctum12年目
相変わらず存続をかけた戦いが続く零細企業
今年はあえて成長を口にしないで
無駄を省く年にしようと思う
5−4で勝つのと2−1で勝つのは
得失点は一緒
12年といえば小学校を卒業する年
反抗期を終えてそろそろ思春期を迎えるSanctum
自分の内面と向き合って
大人の階段を上る

 

翼を閉じたエンジェル

春のmerphには翼がある
この翼
僕はウイングベントと呼ぶ
機能としてしっかりベントの役割がある上に
美しいディテールとして洋服に華を添える
気に入っている

奇をてらう
これは好きではい
でも
優等生の模範解答のような仕上がりもつまらない
独自のアイデアでいて
理論派も納得させたい
それができるアイデアってのはそんなにポンポン出てはこない
しかし
納得がいくものが見つかれば
それはmerphの財産となる

これまでに自分の洋服を賞賛してもらった言葉の中で
一番嬉しかったのは
『アカデミックな服だ』と言われたこと
洋服に僕は芸術性を求めていない
学術的で建築的なものが創りたいと思っている
生地の柄や加工技術やプリント
そういうのは僕の仕事ではない
形を成す=merphと名付けた責任を全うしたい

昨年の秋冬から
黒の裏地にネイビーの綾キュプラを使ってる
黒にはグレー
安心はするがおもしろくないと感じていた
そこで
美しいネイビーをさしてみたら
グッときた
IMG_0373
そして
ivoryにはゴールドをさした
またグッときた

表だけで満足してちゃいけない
裏にもグッとくる服
脱いでも褒められる服
そうでなくちゃ

雲り のち 

計算 計算 計算 計算
探し物 探し物 探し物 探し物
2月恒例の決算作業
1年のズボラが我が身に豪雨となって降り注ぐ
11年も繰り返してきた後悔と反省は
おそらく来年も例外なく繰り返す

辛うじて前年売上を上回った2015年度の実態を
この作業の末突きつけられる
洋服だけつくっていられるデザイナーになりたいが
僕の作る洋服はそこまで僕に楽をさせてくれない
自由を手に入れるために
不自由を受け入れるジレンマ
世の中の摂理
受け入れるほかなし

思えば有限会社Sanctum
5年目までは快調に売上を伸ばし
夢も見放題だったと
記憶も記録も示している
6年目に驕りたかぶる男は見誤った
その時の傷跡は深く深く会社と僕個人の人生に残っている
少しずつ少しずつ取り戻そうと頑張ってきた
もう少しでもう一度挑戦権を争えるとこに戻れそうだ
今が一番苦しいけれども
やるしかない
2016年度
今 描いている計画通りに行けば
自発呼吸ができるようになる
枷の外れたmerphを僕も早く見たい
もう少し
もう少しで雲は途切れる

発見

ホテルで何気なくFBを覗いていた
すると
スバルのインサイトのCMがアップされていて
その中に僕のフィルターに引っかかるフォルムを発見
merphの前身lalu最後のシーズンにリリースしたフィールドコート
それを主人公のお父さんが着ていた
以前もちょうど東京の出張中に
同じくホテルで眠りまなこで見ていたFBの中に
確か大同生命のCM?で
洋服屋の店主役の男性がmerphのシャツを着ているのを見つけた
映画やドラマの衣装は角川大映製作所直属の部署から
オーダーをいただくので
当然誰がどの作品で切るか知らされる
だが
こういうCMとかはどこで手配されたのかわから無い
だから発見したのは本当に偶然
でも我ながら
その小さな画像の中ですぐにわかる
自分の服が持つオリジナリティに少し自信を深めた
お時間あればご覧あれ
SUBARU

image2

ところでこのlalu最後のマーク
わかりますかね?
音楽やってる人ならわかるかな?
フェルマータ
こんな洒落たことやってたんだなあ
歴史もたまには覗いて見るのもいいものだ
merphでもたまには洒落っ気のあることやってみようかな

 

キッチンにはデザインブックとサッポロ黒ラベル

去年のちょうど今日のこと
cassowaryに念願のキッチンとカウンターが出来上がった
あの日からデザイナーがカウンターで
大根を面取りする洋服店の歴史が始まった

洋服屋など
どこも同じ面をしている
やってる本人にはきっと特別な空間に見えているのだろうが
ハンガーラックに服がぎゅうぎゅうにかけられて
平台や棚に畳まれた洋服が積まれている
ディスプレーにはアンティークの何かしらが絡められ
普通洋服を飾らないものに洋服を飾って工夫した気になっている
かく言うわたくしも若かりし頃その類いだった

後輩の内装デザイナーにシンプルにただの箱を作ってもらい
そこに名作の家具を並べた
そして洋服はゆったりとハンガーに吊るした
畳まざるを得ない洋服はストックに隠し
わざわざ毎度出してきて接客した
やがてこの偏屈を受け入れてくれる人たちが増えて
ストレスの無いわたくしの遊び場が出来上がった

その極め付けがこのキッチンとカウンターだ
仕入れ途中の近所の板前が
コーヒー一杯飲みながら大根の皮をむいって行く洋服屋が
どこかにあるなら教えて欲しい
気分の良くなった音楽家がウイスキーを舐めながら
カウンターでギターを弾き出す洋服屋が
どこかにあるなら教えてほしい
多分探すのは難しいだろう
だから
自分の店をそういう店にした
羨ましいだろう
いつもこのカウンターに座りながら
そう思っている
IMG_4278

11

ここをご覧いただいている皆様
本日
我が有限会社Sanctumは11周年を迎えました
一日気を抜けば簡単に潰れるほったて会社が
11年持ちこたえて来れたのも
わたくしの製作する洋服をご着用いただいている
全ての方のおかげであります

記憶を遡れば
最初に創ったのはAラインの袖の太いヘンテコなTシャツでした
その後我がレーベルのアイコンになったフードパーカ
続いてレイヤードのデニムパンツ
そしてコレクションの大半を占める数々のコート
好き勝手創ってまいりました

12年目となるオリンピックイヤー
幕開けは東京で迎えています
今年の戦略会議を日々営業担当と話し合いながら
どうしても実現したいいくつかの目標に向かい
にじりにじりと進んでおります

一年もたないと言われた悪童の会社の12年目
東京は快晴です
記念日の最初の買い物は777円でした
夜は仲間に食事に誘われています
良いスタートとなりました
期待してくれる方にしっかり応えるよう仕事します
どうぞこれからもよろしくおねがします

期待されなかった男たちの逆襲

冬の間
店の奥まで突き刺さっていたrainbow
冬至を過ぎてから次第に角度が浅くなり
やがて春とともに消えて無くなる
月並みだけど
もう一年の1/12が終わる
早すぎる

四十も超えたというのに
新年早々あん時ああしときゃよあったのオンパレード
後悔先に立たず
しかし後からでも挽回できる
昨夜のサッカーU23の試合見ていてちょっと感動した
その昔
日本初のワールドカップ出場を目前で打ち砕かれた
かの有名な『ドーハの悲劇』
その年に産まれた青年たちがやってくれた
各年代の世界大会にことごとく予選落ちし
散々”谷間の世代だの”
”ヒーロー不在”など言われてきた奴らが
見事にオリンピック行きを決めた
誰か一人じゃなくこのチーム一個がヒーローになった
そして23年間
『悲劇』の場所だったドーハは
その年産まれの青年たちによって
『歓喜』の場所として歴史に刻まれなおした
歳のせいか
最近こういうドラマチックな奴にめっぽう弱い
おかげさまで今日は左腕が折れて腰は捻挫してるけど
やる気に満ち溢れている

追記
昨夜の試合
我が社の不燃物の心にも火をつけたことを祈る

8年前

期末の在庫整理をしていると
ハンガーラックの奥から懐かしい作品が顔おを出した
8年前のちょうど今頃絵を描いたコート
シンプルながら
当時にしては自分がやりたい雰囲気をうまく出せた作品
ディテールを細かく見れば突っ込みどころ満載だけども
merphが目指すフォルムを最初に手に入れた作品

僕がmerphという名前を冠して服を創るのは
佇まいを創りたいという意思表示
自分自身の洋服のフォルム
暗闇で人影が見えて
そのシルエットだけで僕の服だとわかる洋服が創りたい
そう思っている
8年前に大体の方向が決まって
その四年後merphを始めた
でもまだまだ未熟
まだまだこれから