ざわめき

知人の舞台女優に御誘い頂き
彼女の舞台を観に行ってきた
八幡市の石清水八幡宮の境内
その杜の中
ぽっかりと空が開いた場所に設けられた特設の舞台
会場に着いてから
しばらく落日を楽しみ
日が完全にくれた19時
舞台は始まった

実は舞台というものを見るのが初めてで
1時間40分のノンストップの物語と聞き
ずいぶん長くやるんだなあと感じたけれど
始まってみればその作り込まれた音楽やセリフや動きに
目が離せなくなった
冒頭つかみどころがないセリフに逆に集中力が上がった
多くを説明しないまま物語はどんどん進み
大勢のキャストたちは完璧に動き
絶え間なくセリフが襲いかかってくる
見る側に己で考えろ言わんばかりの
様々な思想や哲学、物理学のキーワード
僕も知っている要素がたくさん突き刺さってきた
同じことを知ってる人が書いているんだろう
でも
なぜあんな物語が作れるのか
心がざわざわした

ものを作る者の端くれ
時々こういう全く自分にできないことを成し
心にざわめきを起こしてくれる人間の作品を見るのは
とても重要な刺激になる
洋服に落とし込んだり
直接影響を受けるわけではなく
何か鈍くなっている部分が動き出すような気がする

さて
活発になったはずの我が心を引っさげて
明日からまた出張
ここ二週間は怒涛のスケジュール
舞台の言葉を借りるなら
空間は進み続ける
駅弁食って二時間新幹線で打ち合わせしながら
いい仕事していい酒を飲む

また新しいこと始めるので
それに対する準備を進めている

しかし
どうしてもそれじゃなきゃいけないものをなんとか手に入れようとしてため
この三日不本意ながらインターネットの大海をさまよっている
根気のいる作業の中
昨夜ようやく一つ狙っていたものを確保した

疲れ果てた目をこすって時計を見ると23:47
もう直ぐ日が変わる
でも
どうしても飲みに行きたくなって
タクシーに乗って祇園のBARへ向かった
二つ上のマスターがやっている静かなBAR
ここは決まって一人で行く
まだ誰かを連れて行ったことがない
理由はマスターとゆっくり話すため

このBARに連れて行ってくれたのは京都に来てからの一番の友達だった
彼は事情があってもう今はもう京都にはいない
その彼の悪口をマスターと話す
悪口といっても
彼の思い出話
彼の素行の悪さが結果悪口となってしまうだけ
僕もマスターも彼のことを心愛している
しかし
最近は彼のネタもつき始めた
今どうしているかも知らない
最近は京都にも来ていないらしい
いつの間にか彼以外の話しかしなくなった

そんなさみしい気持ちと
なんだかここに来ると落ち着いて酒が飲めることを確かめて
雨の中帰ってきた
もう直ぐ夜が明ける
そしたらmerphの製作と並行進行で探し物開始
いい酒飲んだから体は楽だ
3時間ニューロンをダウン

規定路線

五月の爽やかさが次第に薄れて
京都はすでにあのじっとりした湿気の始まりを感じています
これから始まる梅雨と夏にか弱い私の心は折れそうです

そんな中
手にしているのはwool100%の分厚い生地見本
一度は『2016AW』などと冠して創り上げたmerph群を
もう一度考え直しています
美味しい生地が見つかってしまったので
仕方がありません
merphの今年の秋冬は
まあいつも通りのごついコートの大行進
そこにどんどん展示会から生地変更して
特級品を差し込んでいます
柄にもなくちょっと市場を意識した霞んだコレクションを
cassowaryで望まれる自己顕示欲突き抜けた作品に
規定路線へ修正しているわけです
内覧会をご覧いただき
少しテンション下がった方
ご期待ください
いつものmerphにもどします
そしてこれからそれをもっとやり切っていきますよ

皐月某日

広島から帰ったら
京都は夏でした
また縁があって素晴らしい音楽を聴きました
それから仲間のお店の5周年と10周年を祝って
うまい酒を飲みました
さあて
服を創ります
新しい服を創ります

 

 

最後の一撃

ドルマンスリーブのを着ているのに
そう見えないようにする工夫(デザイン)
裾幅を通常のTシャツ程度にして
見頃に身幅を錯覚させるインパクトの強い別布を叩きつける
機能としてリラックスできる民族衣装のパターンを採用しつつ
それのみで終われせるのはつまらないから付け加えた一工夫
この一工夫が蛇足かトドメの一撃か
これはトドメが刺せたと思う

 

副店長

久しぶりの店頭出勤でございます
ゴールデンウィーク二段目の三連休を
太陽アレルギーと生にんにくで体調を壊し
首まで寝違えて
本日はわたくし吉川店長の直属の部下
”副店長”坂井が8時間
皆様のご来訪をお待ちしております
右から話しかけないでください

cassowaryはすでに吉川の牙城
良い意味でも悪い意味でも
とりあえず
在庫の隠し場所(保管場所)がわかるかが不安です
おかげさまでcassowaryは
年明けからずっと好調を維持しています
そんな状況下でのゴールデンウィーク
久しぶりの一人での店番
無事に終わることを祈ります
職務を果たしましたら
今宵も酒場へと消えていきたいと思います
レスターの優勝を祝うというテイで
いや
場合によりましては
昼からcassowaryで始めてしまっても良いでしょう
国民の休日です
節度をもって嗜めば
文句は言われないでしょう
それでは5月3日憲法記念日
ゆっくりcassowary始めます

裏merph

今シーズン一番気に入っていたデザインは
このmerphなりのbalmacaan
しかし
支持を得られずお蔵入り
こういうの本当に展示会で受けません
でも
cassowaryでは受けるんです
merphとしてわざわざ自分で服作ってるんです
こういうのもっと作りたいと思うんです
他人がmerphをどう理解するかはわかりませんが
最も重要なことは僕が何を作りたいかだと思います
このジャケットは来年リトライします
修正せずこのままリリースしてみせましょう
きっとたくさんの人に来てもらえるはずですから

ちなみに
ショートパンツのカーキも生産できませんでした
この色もいいのにね

正常化

東京から戻りました
いつものやきとり屋でぼんじりとサメのステーキも食えました
姉弟子の和食屋で肉汁の巣窟ザ・メンチカツも食えました
看板の無いBARで肉厚五センチ豚ロースのとん平焼きも食えました
満足です

もちろん食ってばかりではありません
今後のあらゆる作戦会議も燃え上がる内容でした
しかし燃え上がる僕の血潮とは裏腹に
洋服の社会は終末期の匂い
むせ返るほどに悪臭を放っています
いよいよセレクトショップに洋服を卸して売上を上げるというシステムは
限られた人々だけの市場になってきました
そこではデザイナーの役割は
半ばOEM生産のように成り下がり始めています
我らのように自分の形を創って誇らしげに展示すれば
『蛇足』とでも言われているように首を傾げられます
パーカはみんなと同じ形のパーカでなくてはなりません
モッズコートはみんなと同じ形のモッズコート
トレンチはみんなと同じ形のトレンチであればいいのです
後ろが割れたりしちゃダメです
Uネックにフード付けちゃダメです
前が重なってたりしちゃダメです
そんなことより
PRに金かけて掛け率下げて少量からでも別注うけりゃいいんですよ
そうすりゃアリバイ程度にオーダーが入ります
それを断ると卸先はみるみる減っていきます

ところが
ここで一つ矛盾が生じます
前述全国の多くのバイヤーから落第点を付けられたmerph
しかし売上はと言いますと
今年の春
前年比150%に急成長
数少ない理解者である希少な卸先様と
京都と神戸の直営店だけで
大手を含め20軒近く卸先があった時の売上を上まってしまいました

流行り廃り世の中の動き
そう言うことよりも
自分たちのことをもっとしっかり伝えること
それがどんな時代でも一番の武器であると
そう思います
雑誌や噂
人伝えじゃ伝わらないことを
しっかり伝える努力
しんどいけど
こんなに楽しいことはないですね

夏のエフェクト

昨日
夕方まで自宅でひたすら電卓を叩き
無い知恵絞って必死に未来について考えた
いつもそうだが
机の上では上手くいく
しかし実際始まってみると苦戦する
なぜだ?
その原因は?
学生時代
経営学部マーケティングマネージメントを学びながら
まったくその経歴を活かせない経営音痴
いつもより長めには悩んでみたが
誰に誘われるわけでおもなく酒場へと逃亡した

天気も良く
時間もあったのでスニーカーを履いて
鹿ケ谷から歩いて向かうことにした
先日まで桜で賑わっていた岡崎周辺も人影がすっかり消えて
美しい緑への世代交代が完了していた
一本だけ今頃満開の桜を見つけて
ふとどこかの鈍感な男を思い出した

岡崎を抜け東大路を超えて大好きな冷泉通へ
そこから見た夕焼けは
もう夏のエフェクトがかかっていた
個人的に京都が一番美しいと思うのは
これから梅雨に入るまでの緑の季節
様々な植物の緑だけのグラーデーションがたまらなく好きだ
だから出来るだけ車を使わず
心地よい街を歩きたい
そうすれば
ふらりと酒場に行くこともできる
筍の木の芽和えでキリッとした冷酒を
小鮎のてんぷらでよく冷えた黒ラベルを
今週は水曜から東京出張
しっかり仕事して京都に戻ったら
いつもの店をナイトクル〜ジング

堺町六角の奇跡

午後2時の岡崎
この交差店にこの時間に東向きなのはおかしいのである
3時に打ち合わせがあり
昼下がりに店頭に到着したのに
大急ぎで事務所へ戻っている
もうお分かりだろう
またしてもあの男にはめられた
連絡をくれないから二度手間になった
しかしまあ
そのおかげでこの爽快な広い空を見れたし
今日は大目に見てやろうと思ったが
店に戻って
『これより大きいダンボール出して』と頼んだら
全く同じ大きさのダンボールを出してきたので
さっきの分も含めて許すの中止
じゃんけんして勝っても負けてもデコピンをされるという罰を与えた

そんな僕にとっては試練でしかない店長吉川
しかし最近明らかに絶好調
今年度卸売は大暴落なのに
彼の担当する小売
つまりcassowaryの売上は2月3月と月間最高売上を記録
今月も間違いなく記録を更新する
ちなみに生産額は昨年の1/3
春夏の納品を例年の12月からではなく
2月下旬からに遅らせたにも関わらずだ
少々驚いている

関係各所より大絶賛される彼の『鈍感力』
そのせいかずいぶん前に教えたことが
ようやく脳の正しいところに届いたようだ
豆だってすぐ食べられる食べ方もある
けど
こういう納豆みたいなやつもいるんだ
納豆だけに粘った甲斐があったのか
それともただの時間の成果なのか
いずれにしろ
これまでの吉川とは少しだけ違うようだ
これを『堺町六角の奇跡』と私は呼んでいる

とまあ冗談半分で書いたけれども
今年の春
どうやら荒療治のおかげで
今までの自分たちの間違いを証明してしまったようだ
そしてこれは今後もっとはっきりとしていく
もう少しで整う
そうしたら一気に洋服のレーベルの当たり前を
一切やめて別の方法でやっていこうと思う
環境の改善をして
新しいことにも挑戦していく
もうちょっと
もうちょっとで楽しくなる